曲矢さんのエア彼氏 木村くんのエア彼女

曲矢さんのエア彼氏 (ガガガ文庫)

曲矢さんのエア彼氏 (ガガガ文庫)

 すっごく不思議な感覚。話の展開はイマイチ、文章は下手、台詞運びは上手い、状況描写へたくそ、だけどすっごく心に響く一冊だった。
 文章は大分へたくそだと思います。状況描写がさっぱり分からなくて、読んでる最中に「?」と思うも読み返してもさっぱり分からない部分が多々。その反面、台詞運びや言葉のセンスは結構好み。ストーリーがほとんど会話で進んでいくので、ある意味ラノベっぽいっちゃラノベっぽいかも知れないが、ちょっと気になる。
 話の展開も、まあ木村君にエア彼女ができなかった理由は絶対こういうどんでん返しがあるからだろうな、と思ったら実際そうだったくらいに読める。最後の方なんか行き当たりばったりな上によく分からない展開が続いて、非常に読んでて混乱する。
 けれど、そういった部分を全部置いておいてもいいくらい、話のテーマが心に響く。何が良いって、エア彼氏とかエア彼女もそうだけど、木村くんのバスケットへの愛がとっても心に響く。自分も実際にバスケ部だったからかも知れないけど、自分がすっごく大事にしてたバスケットボールへの思い入れとかの描写が、ものすごく心を打つ。これこそ日本人的愛着の精神というか、九十九神的な信心というか、とにかく彼がバスケ子先輩に抱く気持ちが、とっても切なかったのがよかった。ぶっちゃけ、はじめの数ページを読んだ段階では「AURAの劣化コピー?」とか思ったけど、全然違う。読む価値、凄くあります。物を大切にするというか、自分にとってそれがなきゃ駄目っていうくらいの思い入れとか、熱いくらいに伝わってきます。
 もうストーリーの本筋なんかほっといても良いくらいに、主人公のバスケットや杏子への執着、曲矢さんのエア彼氏への執着、正義君への愛への執着が、熱い熱い。こういうの大好き。ちょっと例えとしてはピントがずれてるかも知れないけど、ライ麦畑でつかまえてを読んだ時って、こんな感じなのかも知れない。
 エアリアルとか、設定的にも大分面白いと思います。その分ストーリーが残念だったけど、キャラ設定と世界観設定が十分に面白いから、十分に読める。これでストーリーが凄かったら、もう間違い無く今年一番のライトノベルと言って良いくらいだったかも。
 あと、意外に台詞回しのセンスも個人的に好き。杏子の「○○。はいっ、それあたし!」っていうのが個人的にツボ。
 何度も言うように、ストーリーには全く期待は出来ません。でも、そのストーリーを取り巻いている木村君と曲矢さんと三田村君が、泣けるくらいに心からエア彼氏彼女を愛していることに胸を打たれること請け合いです。

 名言
「杏子は、杏子は俺の……ただの幼なじみだ。いるんだよ、いつも側に……」
「空気みたいに? そんなのエアじゃないですか、木村っ」