リビングデッド・ファスナー・ロック

 ちょっと長いけど面白かった。こんな作品が普通に売ってるところが、ガガガの良いところなんだよな、と思わせてくれる作品。
 作風としては、現代的な解釈を含めた伝記物。死なない人間果敢無し(これで漢字合ってるのか?)の伝説を中心に添えた、小さな村の話。ある条件の下でほぼ不死身の肉体を約束されたハカナシと、ハカナシを取り巻く環境を、小さな村社会という閉鎖的な環境を使って描き出した作品。ぶっちゃけた話、登場する必要の無いんじゃないかと思うほど微妙なキャラも数人居るけど、それでも全体の流れを追っていけばそれなりに納得のいく配置であることもまあ分かる。だがしかし、テルミン先輩と初春の存在意義はいかがなものだったのか……。
 戦闘における描写の丁寧さには感心。充分に雰囲気を醸し出しつつ、戦いの内容が頭の中に浮かんでくるような筆力はかなりのモノだと思う。素敵な描写になかなか気分を高揚させられた。その反面、真面目というか、なんだか固いというか、なんだか時間が無かったんじゃ無いのかと思うほどドライに、固定的で躍動感のない文章で進む部分も見受けられ、そのギャップに少し戸惑う。しかし、トータルで見たときに、見せ場のバトルシーンは読者の心を揺さぶるほどの威圧感と雰囲気で武装された文章を疾走させていて、読んでいて心地が良いほどの戦闘描写だった。特に、急撃に場面が転換していくシーンでの描写が印象に残っている。
 甲はちょっとツンデレ的というか、狙いすぎてはいやしないだろうか、と思うところが多々。というよりも、ほぼ野生児同然に過ごしてきた甲にそんな甲斐性(?)あるのかと疑問にも思ったり。また、本編に全く関係無いけど、表紙を開けてすぐの見開きのイラストは、両儀式かと思った。
 とにかく、面白かった。密度の感じられる描写と、長いだけあってそれなりに深み(というか、続編の可能性。実際に出てるし)の感じられるストーリーが、心地よかった。
 名言
「次の春が来れば、ちゃんと咲く。だから安心しろって」