カスタム・チャイルド ――罪と罰――

 これは面白い! 思わず無印の方も買おうかと思う面白さ。メディアワークス文庫のロンチはこれしか買ってなかったけど、こんなに面白いのなら他の作品ももう少し注目した方が良かったかも知れないと反省。
 デザイナーズチャイルドという、既にSFでは流行ではない感じのギミックが使われているけど、メインはどうやらそこじゃなくて、二つに分けられた人間のカテゴリから見たお互いの人間がメインテーマのように思えた。性格が歪んでる新人類の春野、愚直で真っ直ぐな旧人類の清田、歪んだ価値観を持っているのか押しつけられているのか新人類の冬上。三人がそれぞれ抱えてる問題と、お互いの問題が混ざり合って進んでいき、歪んだ人間と真っ直ぐな人間と、それを取り巻く人間の歪んだストーリーが面白かった。始まり方も割と衝撃的だけど、そこから更に予想外なキャラ造形とストーリーが展開していって、久々に息をつかせぬ面白さを味わう。
 春野が千佳さんに引き取られて、てっきり真っ直ぐ育った結果が清野とお好み焼き屋に行くまでだと思ったら、凄まじい勢いで歪んでて思わずビックリ。ここのキャラメイクの意外性ですっかりはまってしまい、あとはどんどん読み進めてしまう。冬上のキャラは思ったよりそのまんまだけど、やっぱりこういうキャラってフィクションだからって安心してとても魅力があるように感じてしまう。萌えを前面に押し出してないけど、なかなか分かってる萌えさせかたで、グッと来る。清田は言わずもがな、こんなタイプの主人公が嫌いって人はあんまりいないんじゃないかな。キャラクターがどれも魅力的で、読んでて飽きないのがとても良い。ただ、清田の報われない恋にはちょっと同情。
 冬上の親父みたいなひとは、デザイナーズチャイルドがもし本当に実現したら、フツーに社会問題になりそうで嫌だ。それでなくとも、子供をおもちゃみたいに扱う親っていう報道が(嘘かホントかは別として)賑やかなのに、その流れに更に加速を付ける、というよりもこれまでそうしなかった層にまで広がってしまいそうで複雑な気分。自分もオタクである以上、本気でこうしてみたいとは思わないけど、冬上みたいな娘がいたら全力で歪んだ愛を突きつけそうで怖い。実際あそこまで行かなくても、「○○はそんなことしない!」みたいな思想を誰でも持っていて、それがエスカレートすると冬上父や春野母みたいになるんだな。
 双子の二重入れ替わりトリックはすぐにピンときたけれど、そこからどうなるのかは予想のつかない流れだったので、少しドキドキした。千佳さんのパンチ一発で全てが解決とはちょっと予想外だったけど、終わりは綺麗で良かった。
 異常な女・冬上の魅力は、多少ヤンデレに通じるモノがあるというか、というかデレたのは最後の三ページくらいなのだけど、フィクションだというこっちが安心しきった世界では、本当に魅力的に思える。春野の冬上の扱いにイライラしたり、冬上の清田への思わせ感にやきもきしたり、冬上そのものの境遇に消沈したり、ストーリー上本当に良いキャラだったと思う。
 そして、最後の春野の清田へのデレッぷりが、一番清々しくて綺麗に終わった話だと思わせるに良い演出だった。
 本当に良い作品だったと思う。キーリの作者というのは知っていたけれど、作品は読んだこと無かったので、これからチェックしようかと考え中。

 名言
「お前、そんな面倒くさい女だっけ?」