RD 潜脳調査室 Redeemable Dream

RD 潜脳調査室 Redeemable Dream

RD 潜脳調査室 Redeemable Dream

 職業物だそうです
 面白い! 今のところ脳内で今年最高のアニメと認定しているRD 潜脳調査室のノベライズ。作者は十分に実績のある秋田禎信だし、原作は士郎正宗だし、面白くないわけがない。
 サイバーパンクって、こういうのだよねって言いたくなるけどちょっとサイバーパンクとは違う感じがとっても好き。著者もあとがきで書いてるけど、職業物だそうです。海外ドラマとかが得意とする分野にSF要素をぶち込んで日本語で記述すると、こうも楽しくなる物か。
 アニメのRDで描かれていたのは、割と明るいメタルの世界。対してこのノベライズでは、メタルのダークサイドというべき物が描かれる。時代設定はアニメよりも前の様で、ハルさんはカルテ以外に出番無し。久島はどことなくヒール。ソウタに至っては名前すら出てこない。ストーリーの中心は、とあるメタルに入ったまま出てこなくなった人を救助する事件と、電理研を攻撃するクラッカーを追う事件が同時に進行する。一方は高尾シムラというワーカホリック気味な天才ダイバー、もう一方はジャクソンというアスペルガーちっくな天才ダイバーがそれぞれ追う。
 序盤でジャクソンが違法メタルから脱出するために人格をコピーして一つをおとりにする発想にもなかなか驚いた(良い意味でも悪い意味でも。悪い意味で言えば、シロマサ作品でそう簡単にゴーストダビングができるという印象が無かったから)けど、それを伏線にした後半の展開にはもっと驚いた。そしてシムラが見つけ出した、違法でもなければ暴走もしていないメタルと、現実との違いを指摘する場所は成る程と思う。最後にいくに連れて、本から目が離せなくなる、展開の運び方が凄く上手なノベライズだと思う。
 ただどーしてもジャクソンというキャラが好きになれないのが唯一の難点だろうか。シムラは凄く好感が持てるのに、ジャクソンはどうしても生理的に受け付けてくれない。あるいは、シムラは何となくソウタの父に似ていたからイメージが膨らんでくれたのに対して、ジャクソンはイメージしにくいというのもあるかも知れない。このノベライズをさらに漫画化して欲しいと思ったりするのは、自分の想像力の貧困さを恨むところだろうか。
 見た目通りにメタルに依存している者、メタルに依存していないように見えて知らないうちに依存している者。後者は前者を嘲笑い、自分の異常を誤魔化そうとしている。テーマ自体は、ネットが流行り始めた十年くらい前や、ケータイが爆発的に普及した八年くらい前でも普遍的に通用すると思う。あるいは、テクノロジーの進化から生まれた新しいコミュニケーションが存在する限り、人間が逃げることの出来ないテーマなのかも知れない。その辺を考えても、この話は凄く面白い。教訓には決してならないだろうけど、人間がツールとコミュニケーションを考えるとき、この小説のような話は何処にでも付きまとってくるのかもしれない。

 名言
「大抵の物語はシェイクスピアが書き尽くしました。大抵の格言は、バーナード・ショウが言い尽くしています。そのあたりでしょう」