ブック×マーク!
- 作者: 桧山直樹,さくや朔日
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/12/19
- メディア: 文庫
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あんまり面白くないです。あんまり。一つ一つの題材は良いところを揃えてるけど、色々と中途半端すぎて共倒れを起こした感じがしました。
本の中に異世界が存在する、という設定そのものがまず使い古されている気もしますが、特に色あせるような設定でも無いのでいいと思います。けれどなんというか、あまりにもその設定がいいかげん(あるいは著者の桧山氏的には何か厳密な設定があるのかも知れませんが)で、イマイチな気がしました。一番気になったのは、時間の整合性を一切無視しているところです。異界図書館の中では時間が伸張するのに、現実時間とリアルタイムで株のトレードが可能だと言い放った辺りからして首が九十度ほど傾きます。逆に、本来の七倍の時間で長考できる、という設定が付いていれば、彩の守銭奴キャラにもプラスになった気がします。他にも、オチというか、どんでん返しが読めすぎてました。最初に「本の中に異界がある」とか言い始めた辺りから、「まさか俺たちも本の中なんじゃ……とか安直なこと言わないよな」と思っていたら正にその通りでビックリ。最後の方で自分たちが本の中に居ることを自己言及しますが、その表現があまりにもストレート過ぎてもうすこしひねりが欲しかったです。
キャラクターの過去もイマイチ掘り下げが足らない気がしました。といっても、過去が関わってくるキャラは主人公とヒロインの彩だけなのですが、イマイチその設定の重さに対する扱いが適当な気がします。悪く言ってしまえば、取って付けたみたいな。あらかじめ続編が予定されているようですが、主人公の能力の秘密が結局次に持ち越しなのも多少納得いきません。主人公の謎がストーリーのキーになるのならばまだしも、本編の中では特にそんな様子もありません。
地の文章も、とてもとても丁寧な状況説明口調であまり馴染めません。と最初は思っていたのですが、どうやら作者はTRPG関連の方らしく、TRPGリプレイの事を思えば、こういう地の文章も多少は納得です。でも、小説には向かないと思います。
あとがきでは、どうやらこのストーリーや世界設定がTRPGにすることを前提に作られていることが説明されています。ああなるほど、と納得する箇所が多々思いつく反面、果たしてこの基本設定でゲームとして成り立つのかどうか甚だ疑問です。更に、自分はTRPGの文化にあまり明るいほうではありませんが、TRPGのプレイ結果を残すというリプレイ小説というものがあります。そして、ヒットした小説なりゲームなりをTRPGに落とし込んだという作品もあります。ですが、最初からTRPGにするつもりで書いた作品を、設定を全て明かさないままにまず小説として刊行するのはいかがなものか、と自分は思います。
迷言
「返事がなかと。ただの屍のようでごわす」