とある飛空士への追憶

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

 今年は何かあったのか? ガガガ文庫が本気出し過ぎだ。

 以前からの好評を耳にしつつ、読書のスタックが貯まっていてなかなか崩せなかった一冊。崩せて良かった。

 まず聞きたいのは、今年は何かあったのか? ガガガ文庫が本気出し過ぎだ。AURAといいこれといい、年間のトップを争えるほどの優秀作を短期間に二本もぶっ放つなんて……
 とある飛空士と、未来の皇太子妃が共に繰り広げる戦闘機ロマンス? って言えばいいのだろうか。名もない飛行士と身分の高いお姫様のラブロマンス、といえば非常にありふれている感じもするが、今作は有り余るほどの躍動感に満ちた空中戦をふんだんに盛り込んだ、レシプロ戦闘機ノベルと言っても多分差し支えない。
 序盤からすでに結末はほぼ見えていたので、特に盛り上がる場所もなく終わる本かと思いきや、空中戦の描写が熱い。つい一ヶ月くらい前にスカイ・クロラを読んで映画を観たからかもしれないが、頭にすんなりと入ってくるようでいてしっかりと心を揺さぶってくれる空中戦のシーンが楽しい。ワクワクする、とはまさにこのことだった。
 さっきも言ったとおり、始めから結末はほぼ見えていたし、最後の一騎打ちにどう勝つのかもほぼ予想通りだったけど、それでも序盤から中盤、中盤から終盤へと盛り上がっていく物語の紡ぎ方には恐れ入った。読み終わった瞬間に、「この小説、転の部分が無いな」と思ったけれども、そんなことどうでも良いくらい面白い。盛り上がる話というのは、こういう物なのかと身を以て知らされた。
 そして同時に、久しぶりに結末を読みたくない本だったということも覚えておく。どう考えても、この話はハッピーエンドじゃない。そしてそれが最初から見えすぎていて、本当に最後の方のページをめくるのが大変だった。ハッピーエンドの解釈なんて人それぞれだろうけど、俺はどうしても主人公とヒロインが何かしらの形であれ結ばれてほしいと切に願う甘ちゃんタイプなので、結末がどうしても受け入れられなかった。名誉を捨てるのも良い、金を捨てるのも良い、でもどうしても、ファナだけは手放してほしくなかった。話としては、あそこでファナを選んだら間違いなく駄作になりそうな気も少しはするけど、いくら何でもあんまりすぎる。たとえ二人が引き離されるとしても、二人の間に何か傷を残してほしいとか、どうせなら二人で心中してほしいとか、そういうどうでも良いような安っぽい恋愛感情を求める俺って、子供なんだなと自分に失望。
 一方で、びっくりするほど創作意欲を掻き立てる作品だった。二次創作でシャルルとファナのラブラブ展開を書きたーい、という意味ではなく、純粋に趣味の創作熱が燃えてくるタイプの作品。とても良い作品でした。
 最後に少し突っ込んでおくと、かなりの高度から金の粒をばらまくのって、相当危ない気がする。空に向けて撃った弾丸が落ちてきて死んだって事故、中東ではたまにあるみたいだし。すごく感動的なシーンではあるけど、なんだかシャルルがファナに向けて弾丸の雨あられをぶちまけているように見えてしまって、少しだけ残念だったかな。
 珍しく作者のあとがきが無い作品でもありました。あとがきが結構好きだったりするタイプなので、少し残念です。(ちなみに、本編を読んでからあとがきを読む派)

 名言
「わたし、ふざけてませんから」
「地上のことがくだらなく思える瞬間はあるかも。空のなかでは身分なんて関係がないから」