七歳美郁と虚構の王

七歳美郁と虚構の王 (ガガガ文庫)

七歳美郁と虚構の王 (ガガガ文庫)

 登場しないキャラクターに存在感を持たせるという技術は凄いと思う
 第二回小学館ライトノベル大賞佳作の作品だそうです。基本的に、賞を取った作品というのは一応買う事にしているのと、イラストがゴスロリだったという理由で購入。ただ、ガガガの受賞作はマージナルで痛い目見てるから、少し悩んだけれど。
 少しSFで厨二病な、バトル系ノベルだろうか? 最初の方は結構楽しかったんだけど、唐突に現れた厨二ネームの武器とか技で少し引く。厨二設定は好きなんだけど、名前まで厨二なのは少し苦手。そして200ページ辺りから展開される、怒濤のご都合主義。ご都合主義と言っていいのかどうか分からないけど、俺はこれをご都合主義と呼ぶ以外の言葉を知らないのでご都合主義ということにする。
 記憶をデータ化したり、それを他人に植え付けたり、複数人の記憶から誰かを作り上げるという設定が、サイバーパンク大好きな自分としてはとても良かった。ディクシー・フラットラインの匂いがする。けど、けど、200ページ辺りからの展開があんまりにあんまりで、その面白かった点を相殺してしまい、自分の中では毒にも薬にもならないラノベに中和されてしまいましたとさ。
 作中、マクガフィンとして扱われる外木場外郎と白雪の存在感は、なかなかのもの。登場しないキャラクターに存在感を持たせるという技術は凄いと思う。しかしそれにしても、続編出す気満々ですね。
 あとすんげえどうでもいい揚げ足取りですが、デカルトの「我思う故に我有り」って言葉は、思考によって人間が成り立っていることを示す言葉じゃなくて、極限まで世界の非存在を疑った挙げ句に、それを疑う自分が存在するということは真としたもの。唯物論の命題です、知性の命題じゃありません。
 200ページ以降に加えて、久々にあとがきがつまらないラノベ。いや、面白いあとがきなんか桜庭一樹くらいしか出会ったことないけれど、フツーに簡単な作品の紹介と作者の近況報告がベターなんじゃないかと考える自分にとって、上遠野浩平とか川上稔とか西尾維新とかと並んで嫌いなあとがき作家に認定。いや、先に挙げたお三方は、本編は凄く好きな作家なので、この方もそのうち凄く好きになっていくかも知れませんが。ちなみに、他の作家のあとがきでもベターはあくまでベターであって、決して面白いと感じることはありません。無いとがっかりするけど。また今作のあとがきにも記述がありましたが、「白人萌乃と世界の危機」で使われた「本編の途中であとがき」という超荒技は、マジで一本取られたという感じで笑いましたよ。

 名言
「……便利なルールだ。反吐が出る」