どろぼうの名人

どろぼうの名人 (ガガガ文庫 な 4-1)

どろぼうの名人 (ガガガ文庫 な 4-1)

 やおいという言葉の語源に立ち帰ると、こんな作品なんかも知れない
 ガガガ文庫より、小学館ライトノベル大賞佳作作品だったので購入。なんと言えばいいのだろうか、面白いのかそうでないのか、よく分からない。たまに語尾が混乱するけど、文章は上手だとおもうし、なかなか読む側を引きつけてくれる筆回しをする。話の筋も通っている気はする。しかし、話を回すための設定なんだろうけど、魔法使いとか千葉王国とか米軍とか、そういう設定がほぼ何の説明も無しに当たり前の様にやってきて、何事もなかったかのように去っていく。ある意味で、ラノベ的というよりは文学作品的という評価の方が良いかもしれない。少なくとも、なんだかライトノベルを読んでいるような感じではなかった。けど文学として見ると、面白くは無い。
 グリム童話や絵本を多く引用して、登場人物に重ね合わせて人物描写を鮮やかにしていく手法は好きなので、この点では結構面白いとおもう。作中では意図的かなんだかでスルーされてたけど、白雪姫の王子様ってネクロフィリアだったんだよね。
 メインは百合です。多分だけど今月のガガガのチラシに、「百合」を「友情」という逃げ道を使わずに書いてみましたとの作者のコメントも見た気がする。確かに、「セックス」とか直接的な言葉もほんのちょっとだけ出てくるけど、特に百合って百合百合な感じではない気がする。それこそ、表面を綺麗になぞっているような感じ。あるいは、綺麗な感じだから百合なのかも知れない。驚くべきは、本当に徹底して男キャラが出てこない。というか、男キャラのセリフって、両手で数えられるくらいしか無かった気がする。文の父に、軍人に、えーっと、あと誰かいたっけ? ある意味では百合という環境を整えているのかもしれないけど、世界から男を排除したからといって百合なのかな? という疑問も少し。
 結局、主人公が何者なのかよく分からなかった。姉さんに創られたと言い張る割には、両親がいるみたいだし、何なのよ?
 マクガフィンって言うにしては少し規模の大きすぎる魔法使いと軍の謎設定だったけど、こういう裏で何か大事件が起こっていてもメインは穏やかなタイプって、何ていう書き方だったか、思い出せない。
 好きな人は好きかも知れないけど、ライトノベル的なおもしろさはあまり期待できず、文学的なおもしろさには到達していない、非常に曖昧な感じの作品でした。やおいという言葉の語源に立ち帰ると、こんな作品なんかも知れない。
 ああ、あと、こういうあとがき、嫌いじゃありません。

 名言
「セックスとか」