幽式

幽式 (ガガガ文庫)

幽式 (ガガガ文庫)

 珍しくまともなヘタレの主人公
 似た物語があったとして、「AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い」がプラスの方向のベクトルだとすると、この幽式は間違いなくマイナスの方向のベクトル。AURAの読後の爽快感に比べて、こっちは何となくどんよりとした読後感。でも面白かった。
 ホラー小説を読んだことが無い(怖いから)ので、こういうのをホラー小説というカテゴライズにしていいのか分からないけど、俺にとっては十分ホラー。しかも、幽霊がうんだのかんだのも怖いけど、生きてる人間も十分怖い。文章自体に読ませる魅力があり、怖くてもスラスラ読んでいけるので楽しい。割と陰鬱な世界観だけど、あるいは怖いからこそ、続きが気になる引力がある。
 イラストも随分と大胆な人選で、ホラーチックな雰囲気にはよく似合ってる。ライトノベルからイラストを廃した電撃文庫も結構凄いと思ったけど、こういう面白い実験が出来るのがガガガの良いところだと思う。ただ、どういうわけか地の文章と絵がたまーにかみ合ってなかったりする不思議。考えると怖いからやめておこうと思う。
 冒頭の書き出しで、てっきりヒロインのデッドエンドかと思いきや、意外にも生存。ただ何というか、「とある飛空士への追憶」とは違って、こっちはヒロインがどこかに消えてしまった方が綺麗に収まった気も多少。ただ、続きが期待できるのは、それはそれで良いかも。
 ストーリーがとてもよく出来ている。伏線と言えるほど大きな前仕掛けは見あたらなかったけれど、主人公の記憶と現実が乖離していって、そして一つに引き戻された時の崩壊感とも統一感とも言えない感覚にゾクゾクきた。また、主人公が追い詰められて、発狂一歩手前にいくまでの描写も怖くてゾクゾク。ヒロインが幽霊呼びまくりのときもゾクゾク。ゾクゾクしっぱなし。それでいて崩壊しないストーリーを書ける作者は、結構凄いと思う。ただ、冒頭とラストが若干崩壊していたような気も……
 キャラクターの個性も光っている。といっても、まともに物語に噛んでくるのは四名ほどだけど。低身長だけどナイスバディなオカルト先輩と、主人公の頭の中に居た父親、そしてオカルトマニアでデンパなヒロインの神野江ユイ。最後に、ラノベでは珍しくまともなヘタレの主人公。それぞれキャラが競合しないで、かつお互いを高めてるような絶妙な配置が憎い。
 ヒロインはぶっちゃけデンパ。でも可愛いから許す。AURAの様な作ったデンパではなく、天然でデンパなのもまた良いというか救いがないというか、よくわからない。どっちも好きだけどな。ただ、なんというか格好いい。何もかもを恐れないようでいて、人の悪意にさらされると吐いてしまうというアンバランスさがすごく格好良くて可愛い。
 主人公が最後にヒロインを探して全力ダッシュするところも、個人的に超高評価。AURAといい、とらドラスピンオフといい、そういう展開大好き。
 今年のガガガは本当にいい作品を連発してくれる。幽式は、かなり評価されても良いはず。著者の一肇という方の作品は一度も読んだこと無かったけれど、これを機会に少し発掘しようと思う。そして次回作も期待しています。

 名言
「おい、神野江、パンツ見えるぞ」
「見ようと思うから、見えるのだわ」