ナインの契約書―Public Enemy Number91

ナインの契約書―Public Enemy Number91 (MF文庫J)

ナインの契約書―Public Enemy Number91 (MF文庫J)

 ああ、ヤンデレを意識してるんだな」とは思っていたけど
 この間は「ぴにおん!」が今期のMF佳作で一番面白いとか言ったけれど、こっちの方が面白かった。今のところ、こっちが今期の佳作で一番。残り一冊。
 テンポ運びが良く、割とスイスイと読めるけれど意外に面白い一冊。ところで、グロ注意。電車の中で耳を切り落とすところを読んで、しばらく気分が悪くなった。文章に影響されやすすぎるだろ、俺。
 全体の感じとしては、「ブギーポップシリーズ」をテキトーに弄ったらこんな感じになるんじゃないかと思う。群集劇の構成になってるし、各話の間にほんの少しだけ繋がりがあるし、最終的には悪魔が出てきてこんにちわ、で話が終わる。人間の汚い部分をあぶり出しにしているテーマも近いし、グロい。ただ決してそれが悪いわけではなくて、なかなか楽しめる様に書いてあるから、面白かった。
 最初の一章目からして、「ああ、ヤンデレを意識してるんだな」とは思っていたけど、まさか二章の最後で自らヤンデレについて解説を始めるとは思っても見なかった。特に作品の質とは関わりがないけど、こういう流行り廃りの言葉をメタフィクション的に解説するってのは、すこしどうかと思った(そういうことをやるのは「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」とかの最初からそういう作品だということを提示してる場所でやるべきで、わざわざ自分の書いた作品の解説をその作品の中でしなくても良いじゃないか、と思う)。
 嫌いだった点は、狂言回し役の一と九が全然好きになれないことだった。一は陽気にペラペラと「俺、教養あるんだぜ」みたいなしゃべり方をするのが鼻につくし、九は直球ど真ん中を狙いすぎてすっぽかしたみたいな感じというか、似たキャラが多い。
 それ以外の登場人物達は、みんな凄く上手だったと思う。新人とは思えないくらい、読ませる文章でした。ストーリーも良かったし、描写も上手。具体的には、耳を押さえながら本を閉じるくらい。
 所々よくわかんないくらいにすっぽかした感じがしますが、全体的に面白いので良いと思います。
 元ネタを提示せずに引用をキャラに喋らせて、「分かってる人には楽しい」みたいなシーンがいくらかありましたが、やるのならもっと徹底的にやるか一切やらないかのどちらかじゃないと、妙に鼻についてしまうというのが一番個人的に残念な箇所でした。

 名言
「餡子入りパスタライスとかな」