2008年を振り返って

 ここからは、今年に発売されたラノベに関しての話です。
 今年を通しての印象といえば、恐らく多くの人が「ガガガが本気だした」という感想を、多かれ少なかれ持ったと思います。今年のガガガは、個人的に非常に当たりの年だと思います。TOP5に入った作品だけでも、「AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い」、「とある飛空士への追憶」、「人類は衰退しました」の三作がありますが、それ以外にも「幽式」、「クラウン・フリント レンズと僕と死者の声」など、ハイレベルな作品が多く並びました。相変わらず新人賞の作品は微妙なものでしたが、それでも既存の作家のレベルが非常に高いので、今後の展開がとても楽しみです。また、来年の新人賞の特別審査委員に田中ロミオ氏が参加しているので、あるいはその効果でレベルの高い作品がガガガに投稿されたりしないだろうかと密かに期待しています。
 電撃文庫の今年の大賞は、正直舐めていたとしか言いようがありません。受賞作を発売したのが今年の二月にも関わらず、年内に合計で三作もクオリティの高い作品を放っており、今後が非常に期待できます。また、大賞以外があまりパッとしない年だったので、なおさら峰守ひろかず氏に期待がかかります。彼はきっと、電撃の看板を背負う作家になるのではないかと、個人的には思っています。
 ここからは自分の個人的な読書的嗜好ですが、今年は富士見と角川にあまり求心力のある作品が無かったように思います。実際、今年に読んだ富士見作品とスニーカー作品は、「フルメタシリーズ」と「ダンダリアンの書架」だけだったと記憶しています。電撃の一人勝ちという状況も大いに関係あるのでしょうが、それにしてもあまりに購買意欲をそそらないラインナップで、とても残念でした。しかし裏を返せば、その電撃文庫一人勝ちの状態の中で、唯一対抗できる程の作品を放ったのが今年のガガガであり、殊更に今後が期待されます。もっとも、富士見とスニーカーが既に持っている強いブランド力とお抱えのシリーズを中心に展開しているのに対して、電撃とガガガは共に新しい作家や別の畑の作家を起用するという非常に実験的な人選をしていたことが、差別化の大きな原因になったと思います(もっとも、電撃は既に自身が抱えているシリーズ物だけでも十分なブランド力があるので、それプラス実験作という組み合わせに対して、他のレーベルが追随できていないというのが、電撃一人勝ちの原因かつガガガが唯一対抗できた理由でしょうが)。
 また、今年は一迅社の参戦という、新しいレーベルの立ち上げもあり話題になりました。こちらもガガガと同様に、他の畑から才能を引っ張ってきて活用するという手法がメインのようですが、人選があまりにも微妙すぎて現段階では対抗馬になっていないというのが正直な感想です。しかし、本来ラノベで活躍していない才能をラノベに引っ張ってくるという行為自体が、ラノベというフォーマットを拡張させる大きなカンフル剤であり、また多くの人に活躍の機会を与え、そして読者が望んでいた作家の個人作品が提供され、それが売れるという、非常に良いスパイラルを生み出しているのは間違いありません。出来ることならば、ガガガと一迅社には、常に先へと進む決断を怠らず、決して保守的にならず、斬新な人選とすばらしい作品を生み出す努力を怠って欲しくないと思います。
 また今年は、「俺の妹がこんなに可愛いはずがない」を筆頭とした、インターネットメディアとの融合作品が話題になったことも非常に大きな注目点だったと思います。ネットの世界が現実とクロスオーバーする、ある意味でメタフィクション的な作品が世に横行するということは、ネットという宣伝媒体、特に個人経営のブログなどが、消費者の購入意識に非常に大きな影響を与えているという事を浮き彫りにしたと思います。古くは「裏ニュース」や「侍魂」等のテキストサイトから始まり、現在では「アキバblog」や「カーズSP」、「カトゆー家断絶」など、多くの人(特にオタク)が情報収集の中心としているサイトによって、オタク文化の平均化、イコライズ、あるいは並列化が起きていると思います。もしかしたら、数年後にはそれらのいわゆる個人運営のニュースサイトをくまなくチェックしていることが、オタクである条件のスタンダードになるのかも知れません(ある意味で、既にデファクトスタンダード化はしていると思いますが)。またそれと同時に、「ニコニコ動画」の影響も決して切り離せないところにあると思います。現段階で、「ニコニコ動画」とラノベとの間に大きな関連性は見られませんが、今後どのようなことが起こるか分からないのがネットの怖いところです。いつの日か、知らず知らずのうちにネットによって自分が購入する商品を無意識に決められてしまう世の中が当たり前になったりするのかもしれません。
 図らずとも最後がネガティブな話題になってしまいましたが、今年一年の最終的な感想として思ったことは、ライトノベルにはまだ成長するだけのポテンシャルがあるという事でした。これまでとは違う人材の起用や、話題の変化、更に新人の発掘という三つの大きな点だけで、ライトノベルの未来はまだ明るいと、個人的に非常に楽観的に見てしまいます。また、来年末には電撃文庫から新たに「メディアワークス文庫」が発刊されるとのことで、非常に興味を持っています。常に新しいことをどん欲に取り込んでいくライトノベルは、まだまだ成長するでしょう。文章という非常に使い古された手法を用いつつも、未だに進化出来るという文字の世界の魅力を感じざるを得ません。また、ライトノベルは常に進化の最先端であるべきだと考えます。いずれライトノベルも古典と呼ばれる時代が来るのでしょうが、その頃にはまたそのころのライトノベルがあると思います(最も、真の古典作品と、比較的新しい古典作品ではまた性質が違うので、とても難しいところでしょうが)。ライトノベルとは、常に時代の先を行く文学のことを指し、その先端が昇華し当然になることで、文学作品が生まれるのだと思います。時代の先端を走り続ける限り、ライトノベルの将来は、きっと明るいと思います。
 来年も良いお年を、そして良いラノベを。