エヴォリューション

エヴォリューション (ガガガ文庫)

エヴォリューション (ガガガ文庫)

 ヌルい。帯とかあらすじだけ見て本格サイバーパンクかと思ったら、何か違う。決して面白くないわけでは無かったのだけど、なんだかヌルい。
 まず神の設定からしてヌルい。システムの内部に神が居るとか、あってはいけない。神はシステムの外に居なくちゃいけない。次に、世界設定がヌルい。バグは外部要因以外では普通生まれないのに、それを内部の神が除去しようという考え方がヌルい。内部でボットがちょっと増えたからといって、世界を丸ごとエミュレーションしてるシステムが過負担に陥るとか考えられない。多分、ネトゲネトゲベンチマークソフトを参考にして書かれた描写なんだろうけど、アレは外的要因が働いているわけで、内部のリソース割り当てが決まってる閉鎖系で処理速度がどうのこうのって、そのシステムを設計した奴が楽観的すぎる。
 とまあ、2009年的考え方で突っ込んでみたけど、多分未来になったら普通にプログラムを書いちゃうプログラムとかわけのわからん物が発明されるような気がするから、こういう突っ込みは無意味な訳です。というか、そういう物を楽しむのがSFです。そう言う意味で、今作はなかなか面白かったと思います。今作に少しだけ似たシミュレーテッドリアリティ系小説で、個人的に傑作だと思っている「神は沈黙せず」っていうSF小説があるんですが、その場合でもプログラムをするプログラムっていう、チューリングマシンに喧嘩うってるとしか思えない代物が出てきたりします。けれども、チューリング先生の思想を180度変えちゃう様な素敵な研究が明日にも登場するかも知れないし、登場すれば世界はだいぶ楽しい方向に向かうと思います。そういうのを楽しむのもSFです。
 ただやっぱり、今作はちょっとヌルかったです。サイバーパンクによくある疾走感や酩酊感がなかったのも残念でしたが、一番がっかりしたのは、サイファーが消去された世界の描写でした。そりゃ無いよ。
 でも、世界が縮小してくのと同時にページが縮小したり、ページ数稼ぎかと思ったりもするような斬新な技法が使われてたりもして、小説のエヴォリューションは感じてみたりはしました。
 話は続き物の様ですが、買うかな……うーん。
 何というか、何かしらのSF映画を観て書かれた感じのするラノベでした。
 あと、名前的にあどみんは黒幕だと思ってたら外れた。

 名言
「仮想世界で誕生した子供。あるいはそれは……」